社会医療法人天神会 2024年度 年報
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診療技術部看護部各委員会報告業績編集後記教育講演会・研修会・研究会天神会医療研究会抄録のツールとしてトレーシングレポートが活用されている。そこで、古賀病院21(以下、当院)でも2022年11月よりトレーシングレポートの運用を開始した。トレーシングレポートの活用は、患者情報の共有だけでなく、共有した情報により医療安全に貢献できる可能性がある。そこで本発表では、保険薬局との連携により医療安全に貢献できた取り組みと事例について報告する。当院のトレーシングレポートの運用は、保険薬局から院内薬局にFAXが送られ、病院内の薬剤師が内容を確認した上、医師へ情報提供を行い検討し、保険薬局に回答する。この運用による2024年1月から2024年12月までの7ヶ月間に送付されたトレーシングレポートから、プレアボイド(薬剤師が薬物治療において患者への不利益を回避・軽減する取り組み)に繋げることができた事例を収集した。 プレアボイドに繋げられた事例には、適正な用法・用量への変更および副作用の回避が予想される症例であった。したがって、トレーシングレポートのような情報共有できる1つのツールを構築することは、プレアボイドに有用であり、情報共有によるアウトカムを導くことは重要であると考えられた。 一方で、情報共有から処方や処置までの時間差による問題も明らかになっており、医師・病院薬剤師間での情報共有方法や処方確認方法の再構築が必要である。現行では保険薬局から病院薬剤師へのフィードバックが任意となっているため、標準化されたフィードバック運用の構築が求められる。薬局薬剤師の負担を軽減しつつ、確実な情報共有体制を構築するためには、保険薬局側の協力が不可欠であると共に、病院側は保険薬局からの問い合わせなどの受け入れ体制を整える必要がある。今後も、トレーシングレポートの電子化や運用体制の改善を進め、薬物治療に関する情報の連携を強化することで、医療安全への貢献をさらに高めることを目指す。【参考文献】清水裕 石村淳 矢吹直寛:トレーシングレポートの事例報告を利用したインシデント回避、日本医療マネジメント学会雑誌 Vol.25,No.2,2024十二指腸潰瘍による消化管穿孔を来した症例新古賀病院 消化器外科 ◎柳瀬誠、柿本忠俊、篠原英仁、中村祥一、吉成美喜、新上浩司、馬場活嘉、山方伸茂、宇治祥隆、池添清彦 症例は38歳、男性。深夜の起床時に腹痛を認め、症状改善しないため当院救急外来に救急搬送された。特に既往はないが、多量の喫煙と飲酒歴を認めた。搬入時のバイタルサインはあきらかな異常所見認めず、身体所見は心窩部から右上腹部にかけて圧痛を認めるのみであった。採血検査では、炎症所— 222 —急性期脳梗塞診断におけるMRA撮像条件の検討~再灌流時間短縮と予後改善のために~新古賀病院 診療放射線課 ◎原祥子、中村宗史1)、榎木田恵子1)、西岡佑1)1)新古賀病院 診療放射線課【背景・目的】脳梗塞は脳血管閉塞による脳の神経細胞死であり、時間が経過するほど脳細胞は破壊される。迅速に再灌流が得られれば症状改善が期待できるため脳梗塞治療はできるだけ早く検査・治療をすることが重要である。急性期脳梗塞診断用MRI検査において、診断可能な画質を維持しつつ撮像時間を短縮させたプロトコルを作成した。中でも最も撮像時間の長い頭蓋内MRA撮像プロトコルの報告を行う。また、患者の機能的予後を評価するため、modified Rankin Scale(以下mRS)の値を活用した。【使用機器】Philips社製MRI装置Ingenia 1.5T【方法】SENSEをCS-SENSE(以下CS)に変更し、かつ撮像範囲・Matrix数を減少させ、画質と時間の比較を行う。SENSEとはデータを間引いて収集し時間短縮する技術である。SENSEにさらに「圧縮センシング」という方法を使って必要なデータ量を大幅に減らすことで高速撮像できる技術がCS-SENSEである。【結果】MRAの撮像時間は3分短縮し、検査全体の時間は5分44秒短縮された。画質の比較では条件変更後も中大脳動脈M2まで画像評価可能であった。また、救急車搬入からAG室入室時間は平均で25.5分短縮され、救急車搬入から再灌流までの時間は55.7分短縮された。退院時のmRSはFAST MRIを使った方が平均で0.74ポイント改善した。【考察】CSの強度をあげることでさらなるMRAの時間短縮が可能であるが、体動がある場合の画質低下が顕著であり今回は採用しなかった。【結語】MRIの撮像時間が5分44秒短縮されたことで、救急車搬入からAG入室時間および再還流までの時間がどちらも短縮され、患者の機能的予後の改善の一助となったと考える。救急に携わる各スタッフの意識付けと連携強化を行うことでさらなる時間短縮を可能にし、予後を改善することが期待される。トレーシングレポートによる薬物治療の質向上プレアボイド事例と今後の課題古賀病院21 薬剤課 ◎山口紗代 医療機能分化が進むなか、シームレスな薬剤管理を行うために、病院と保険薬局での情報共有が重要視され、その1つ

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