心臓血管外科
概要
当科では、心臓血管外科専門医かつ指導医資格を持つ医師が4名常勤しており、患者さんのさまざまな心臓疾患に対応して多彩な手術術式を駆使して最適な治療を行うことが可能です。
近年は、低侵襲心臓手術に注力しており、心臓手術後の痛みや身体への負担を軽くし、可能な限り合併症を回避することに努力しています。 低侵襲心臓血管手術(小開胸心臓手術、大動脈瘤カテーテル治療)と、標準開胸手術(胸骨正中切開)をともに行っており、安心・安全でクオリティーの高い診療を目指しています。
低侵襲心臓血管手術、標準開胸手術ともに手術件数が増加し、年間300例以上施行しています。
小開胸低侵襲心臓手術(M I C Sミックス)とは?
胸部の骨(胸骨や肋骨)を1本も切ることなく、胸腔鏡による画像を見ながら長い鉗子器具を使って、肋骨の隙間(肋間)から心臓手術を行うことをM I C S (Minimally Invasive Cardiac Surgery:ミックス)と言います。 標準的な開胸による心臓手術(胸骨正中切開)ではおよそ20〜25cmほどの皮膚切開と胸骨の切断が必要ですが、M I C Sでは、骨を切らずに手術創を小さくすること(6〜8cm)により身体への負担が減り、術後の回復が早いことが知られています。主なM I C Sの術式には、小開胸僧帽弁形成術、小開胸大動脈弁置換術、小開胸冠動脈バイパス術の3つがあります。
M I C S (ミックス)の術式
右小開胸僧帽弁形成術
心臓弁膜症の一つであり、僧帽弁の変形により重度の逆流を起こした『僧帽弁閉鎖不全症』に対する術式です。
手術は、右胸の外側あたりを6~8cmほど小さく切開し、人工心肺を右足の付け根から挿入し一時的に心停止状態にして行います。人工弁を使用せずに、弁組織の変形を修復することで、弁逆流を治療します。
右小開胸大動脈弁置換術
『大動脈弁狭窄症』『大動脈弁閉鎖不全症』に対する術式です。
胸部の骨を切除せず、右胸の脇あたりを約6〜8cmほど小さく切開して手術を行います。 正常の大動脈弁は、柔らかくて薄い3枚の膜状の組織ですが、『大動脈弁狭窄症』では、石灰化などで大動脈弁が硬くなり、弁が開きにくくなって心不全を起こします。人工心肺を使用し、硬くなった弁を切除し、代わりに人工弁を縫い付けます。
左開胸冠動脈バイパス術 (MIDCAB)
大切な心臓の栄養血管である冠動脈が、動脈硬化によって狭窄や閉塞を起こしてしまう『狭心症』や『心筋梗塞』に対する手術です。
左胸を6〜8cmほど小さく切開し、人工心肺を使用せずに、心臓が動いている状態で、左内胸動脈と冠動脈(左前下行枝)と吻合します。冠動脈(左前下行枝)以外に病変がある場合は、追加治療として冠動脈カテーテル治療を行い、手術の侵襲を最小限にすることができます。
【MICS(ミックス)の注意点】
すべての患者さんに、MICSは可能ではありません。胸郭の変形、高度肥満や胸部大動脈に
動脈硬化が進行している患者さんにとっては、標準開胸の方が、安全で手術時間も短くなる
ことがあります。また、MICSの方が、標準開胸(胸骨切開法)よりも人工心肺時間や心臓停止
時間が長くなることが知られています。
MICS、標準開胸手術ともに、メリット・デメリットがあります。患者さん一人ひとりの
体調や状態に応じて適応を判断いたします。
標準開胸(胸骨正中切開)による心臓手術
冠動脈バイパス手術(CABG)
『狭心症』や『心筋梗塞』に対して行われる治療です。
前胸部の正中を20〜25cmほど切開し手術を行います。当院では、人工心肺を用いて循環補助を行いながら、心臓を止める事なく手術を行い、心臓の負担を軽くしています。
動脈硬化が少ない冠動脈疾患の患者さんにおいては、「心臓カテーテル治療(PCI)」は、優れた治療法であり、患者の体力の負担が少ない、入院期間が短いなどのメリットがあります。
糖尿病の患者さんや、腎機能障害を合併していたり、動脈硬化が広範囲で複数の血管が狭窄している冠動脈疾患の患者さんについては、PCIよりも「冠動脈バイパス術」が適切です。その理由として長期成績がよいこと、PCIに比べて心機能改善効果が高いことが知られています。
患者さん一人ひとりの病変はさまざまです。当院では、循環器内科医と心臓外科医が一緒に協議し、エビデンスをもとに十分な議論の上、患者さんにベストな治療方針を決定しています。
弁膜症手術
当科では、「弁膜症手術」にも力をいれており、症例数が増加しています。
『心臓弁膜症』は、症状が軽いまま病状が進行してしまう病気であり、適切な手術時期の判断と治療が必要です。
『僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逸脱症)』は、心臓弁膜症のなかでも比較的多い疾患です。弁温存する「僧帽弁形成術」は、ワーファリン(血液をさらさらにするお薬)を飲む必要がないため、術後はQOL(生活の質)が向上し、かつ遠隔予後が良好であることがわかっています。
弁形成術のなかでも、技術的に高難度である「僧帽弁前尖形成術」において、当院では「人工腱策」を使用するなど多彩な術式を駆使し、良好な成績を出しています。 また、弁膜症に不整脈(心房細動)を合併した症例では、「メイズ手術(術中アブレーション)」を行い、心臓のリズムを正常に整える治療も行っています。
症例
2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | |
---|---|---|---|---|---|
心臓, 胸部大動脈手術 | 128 | 120 | 118 | 133 | 153 |
├人工心肺手術・OPCAB | 125 | 114 | 114 | 129 | 149 |
└胸部ステントグラフト手術 | 3 | 6 | 4 | 4 | 4 |
腹部大動脈瘤手術 | 23 | 19 | 27 | 31 | 33 |
血液透析アクセス造設術 | 125 | 126 | 120 | 120 | 107 |
下肢静脈瘤手術 | 39 | 19 | 27 | 31 | 33 |
末梢血管、その他 | 27 | 24 | 36 | 25 | 17 |
合 計 | 342 | 308 | 328 | 340 | 343 |